研究概要 |
熱プラズマは,種々の材料プロセスに応用されているが,プラズマと材料の境界領域の物理と化学が十分に理解されていないため,詳細なパラメータ制御が未だ十分になされていない.本研究は,溶接など材料が溶融して蒸発を伴う熱プラズマ材料プロセスに焦点を絞り,プラズマと材料の間の熱・物質輸送について実験および理論的解析を行うことによって,材料と密接に関係するプラズマアーク電極現象を明らかにしようとするものである.前年度はヘリウムGTA溶接におけるプラズマを診断することにより,溶融池からの金属蒸気がプラズマに与える影響を考察した. 本年度は,プラズマアーク電極現象の典型例として溶接後の溶融池形状に与える材料中の表面活性元素の影響を取り上げた.具体的には,材料としてステンレス鋼,それに加える表面活性元素の方法として酸化チタン粉末をステンレス鋼表面に塗布する手法を選定した.表面活性元素は溶融池の溶込み深さを通常の場合に比較して3倍程度に増加させることが知られている.本研究では,前年度の成果をもとに,そのメカニズムを次のように推察した. 表面活性元素が表面張力の温度依存性を変化させることにより,それを駆動力とした溶融池のマランゴニ対流を外向きから内向きに逆転させるため,アークから材料への熱が溶融池の底方向へ輸送される.これが溶融池表面の温度勾配を急峻にし,溶融池からの金属蒸気がアーク下部中央部にのみ集中するようになる.前年度に明らかになったように金属蒸気はアークの電気伝導度を増加させるためアークプラズマが緊縮し,そして陽極における電流密度が上昇するため,結果としてローレンツ力による溶融池の内向き対流が加わり,マランゴニ対流との相乗効果により溶込み深さが大幅に増加する,と考えられる.
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