アルミニウム陽極酸化皮膜はナノメータレベルの均一な直線状細孔を多数有し、分離膜として利用されている。しかし、陽極酸化皮膜は酸やアルカリ中では容易に溶解するうえ、中性水溶液中でも徐々にAlイオンが溶出するという欠点をもっている。一方、炭素は耐薬品性が高く化学的に安定である。そこで、本研究ではアルミニウム陽極酸化皮膜の外表面と細孔内壁にCVD法により均一に炭素を堆積させて化学的に安定な炭素/陽極酸化皮膜複合体を調製した。この膜は表面に炭素が堆積しているので疎水性が強く、アルコールにぬれるが水にはまったくぬれない。このようなぬれ性の違いを考慮して、本年度では炭素/陽極酸化皮膜複合体を水-エタノールの浸透気化分離の分離膜として利用し、その分離特性を調べた。さらに、細孔内壁を改質するために複合体にさまざまな物理および化学的処理を施し、これらの処理が分離特性におよぼす効果を検討した。 800℃でプロピレン(窒素中1.2%)のCVDを行い陽極酸化皮膜上に炭素を堆積させた。調製した炭素/陽極酸化皮膜複合体(細孔径20nm)に対してつぎの3種類の処理を施した。まず、炭素表面のぬれ性を変化させるために硝酸処理とフッ素処理を行った。これらの処理により炭素表面に酸素原子あるいはフッ素原子を導入することができる。また、複合体をポリスチレンのトルエン溶液中に6時間浸漬し、その後トルエンで表面のポリスチレンを洗浄除去することで、細孔内へのポリスチレンの導入も試みた。 これらの膜を用いて水-エタノールの浸透気化実験を25℃で行った。その結果、未処理の炭素/陽極酸化皮膜複合体では水-エタノールの浸透気化実験で分離性能を示さないが、細孔内にポリスチレンを導入したり、炭素表面をフッ素原子で化学修飾することで水選択透過膜となることがわかった。
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