アルミニウム陽極酸化皮膜はナノメータレベルの均一な直線状細孔を多数有し、分離膜として利用されている。しかし、陽極酸化皮膜は酸やアルカリ中では容易に溶解するうえ、中性水溶液中でも徐々にAlイオンが溶出するという欠点をもっている。一方、炭素は耐薬品性が高く化学的に安定である。そこで、本研究ではアルミニウム陽極酸化皮膜の外表面と細孔内壁にCVD法により均一に炭素を堆積させ、化学的に安定な炭素/陽極酸化皮膜複合体を調製した。さらに、細孔内壁を改質するために酸処理やフッ素化処理などの化学的処理を施した。このように化学修飾した炭素/アルミニウム陽極酸化皮膜複合体の吸着特性を調べるとともに、気体透過実験や水-エタノールの浸透気化分離実験で分離膜としての性能を調べた。 未処理複合体とフッ素化処理したものの窒素吸着実験より、フッ素化処理を施すと毛管凝縮による窒素吸着量はかなり減少することがわかった。このような吸着量の減少は細孔内壁へのフッ素原子の導入によるN_2分子と内壁との相互作用の低下のためと考えている。 炭素/陽極酸化皮膜複合体に処理を施すと、どの場合も気体透過率は減少した。細孔中の気体の流れはKnudsen流であると考えられるが、全ての膜でその選択性は理論値よりやや高い値となった。 未処理および処理した炭素/陽極酸化皮膜複合体を用いエタノール水溶液の浸透気化実験を行った。未処理および酸処理膜では水-エタノールの分離は起こらなかったが、フッ素処理した複合体については、エタノール濃度が高い領域において、透過液のエタノール濃度は供給液の濃度より低いことがわかった。つまり、この領域ではフッ素処理膜は水選択透過膜であった。これらの膜は市販の有機高分子膜と比較すると分離係数はまだまだ低いが、透過流速は高く10〜100倍であった。
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