研究概要 |
原因不明の輸血後肝炎患者(日本人、イニシャルT.T.)から分離した新規のヒト血清肝炎ウイルスであるTTウイルス(Biochem Biophys Res Commun241 92-97,1998)は、疫学的調査によって、我が国のみならずアジアやアフリカ、欧米など世界に広く分布するウイルスであることが判明した。また、界面活性剤処理による物理化学的な性状の解析、ウイルス核酸の各種消化酵素処理、および核酸配列の解析などによって、TTウイルスは外殻を持たず、キャプシド内に約3900塩基長の環状1本鎖DNAを内包する小型のウイルスであることが明らかになった。既知のウイルスのなかでは、サーコウイルス科(Circoviridae family)のウイルスに類似しているが、これまでヒトではこのウイルス科に属するウイルスは同定されていない。遺伝子DNAには、蛋白として翻訳可能な2つの主要なフレーム(open reading frame)が認められる。 TTウイルスは血液中だけでなく、糞便中でも検出されることが明らかとなり、輸血のみならず、経口感染によっても感染しうる新しいタイプの血清肝炎ウイルスである可能性がある。TTウイルスはDNAウイルスであるにも拘わらず、RNAウイルスに匹敵するほど遺伝子変異が顕著であり、核酸配列が大きく異なる遺伝子型が多数認められることが分かった。すなわち、核酸配列が互いに30%以上異なることを基準にして、現時点で1型から16型までの少なくとも16種類の遺伝子型が見いだされている。既知のウイルスと同様に、遺伝子型の違いによって宿主に対する感染の影響に大きな違いが見られることを示唆するデータが得られている。
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