我々は、まず運動負荷をストレスのモデルとした研究を実施し、1時間を超える持久性運動では好中球のプライミングが生じ、これが成長ホルモンやインターロイキン6・8等の生理活性物質の血中濃度上昇と相関があること、さらに好中球のプライミング現象が筋損傷にも関与することを証明し、以上のストレス応答は運動の反復により馴化することも証明した。さらにマラソンレースでの検討で、好中球活性化の指標である脱顆粒物質(ミエロペルオキシダーゼ・ラクトフェリン)の血中・尿中濃度の著明な上昇より生体内で好中球が活性化されていることを証明し、機序として成長ホルモン、プロラクチン、インターロイキン6・8、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージ遊走ペプチド1等の食細胞をプライミングするサイトカインが血中・尿中で増加することも明らかにできた。一方、コルチゾール・インターロイキン10等の免疫抑制物質の血中濃度も上昇することを証明し、さらにマラソンレース後の血漿中にはin vitroで好中球・単球が産生した活性酸素を消去する抗酸化活性が上昇していた。原因と考えられる抗酸化物質を検索したところ、ビタミンCの血中濃度がレース後に2倍以上上昇しており、運動中に産生される活性酸素を消去する一つの適応機構として働いているものと推察された。この他、手術侵襲をストレスのモデルとした検討も行ったが、このような極端なストレスでは、サイトカイン濃度が顕著に上昇しても好中球機能はむしろ抑制されることが判明した。以上を総合すると、生体がストレスに曝されると、種々の生理活性物質が分泌され血中好中球や単球が活性酸素や蛋白分解酵素を放出しやすい状態となり、炎症による生体損傷が惹起されるが、恒常性の攪乱を防ぐための適応機構も存在し、ビタミン等の補給により病態形成を阻止できる可能性が示唆された。
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