研究概要 |
遺伝子治療の可否は他の治療と同様に最終的に生体内心筋の収縮能と動物の予後の改善を指標にして判定すべきである。筆者らはδ-SGとレポーター遺伝子のLac Zを同一のCMVプロモーターで駆動したrAAVを作製し、検討を厳密にする為に上記TO-2系心筋症ハムスターを先と同様、開胸手術して両ベクターをco-transfection (n=26)またはLac Zのみ単独投与した(n=20)。投与の時期として心筋に不可逆性の変化が出る前で手術侵襲に耐えられる5週令を選んだ。なお予備実験でδ-SGとLac Zは遺伝子発現に関して相互に干渉しない事を確認した(Kawada et al.,B.B.R.C.,2001)。 従来、正常ハムスターは約100週生存し、TO-2系心筋症ハムスターは1/4の30週程度の寿命とされた(Sole, Hamster Information Service 1986)。今回Lac Zのみ投与した群は4週から死亡し始め160週目からは急速に死亡数が増加した。この結果は従来の報告とほぼ一致し、遺伝子投与の際に行った手術の後遺症は残らなかったと考える。一方δ-SGとLac Zとを共投与した群では死亡例が無く、追跡した250日まで活動していた。またこの間、超音波検査で心筋の収縮能を検討した結果、左室の拡張期径(LVDd)は両群で差を認めなかったが、左室の収縮期径(LVDs)は改善し、算出した収縮率(%FS)と左室駆出率(LVEF)も著明に改善した。これは遺伝子異状による心不全のrescueに成功した最初の報告である(Kawada et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2002)。
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