研究概要 |
造血幹細胞には、その増殖と分化を可能にする微小環境(ニッシェ)が与えられている。本研究では、造血幹細胞の微小環境の分子基盤を、(1)造血の発生、(2)造血幹細胞と支持細胞の相互作用の点から解析し、以下の点を明かにした。 (1)哺乳類の個体発生では、胎児卵黄嚢における胚型赤血球の産生(一次造血)によって造血が開始される。その後、AGM(Aorta:大動脈、Gonad:生殖器、Mesonephros:中腎)領域において自己複製能を有する造血幹細胞が発生し、その造血幹細胞が卵黄嚢、あるいは胎児肝・骨髄へと移行し、二次造血が営まれるようになる。本研究では、造血幹細胞と血管内皮細胞の共通祖先細胞であるHemangioblastの同定を、単細胞レベルで明らかにした(Blood,1999)。また、マウス造血幹細胞が、胎生8.5-9.5日に、卵黄動脈(Vitelline Artery)内に発生することを明らかにした(Immunity,1998)。 (2)幹細胞の自己複製が細胞接着とリンクするということを指摘した。造血幹細胞には、TIE2受容体が発現していて、アンジオポエチン(Ang-1)の刺激により、インテグリンを介してフィブロネチンへの細胞接着性が増大し、それが、未分化性維持に関与しているというデータを示した(Immunity,1998)。 (3)Ang-1を、血管周囲細胞だけでなく、造血幹細胞が産生していることを見出し、造血幹細胞が血管新生に関与する可能性を示唆した。すなわち、幹細胞から産生されるAng-1によって、血管内皮細胞がリクルートされ、造血-血管内皮相互間作用が緊密になり、幹細胞の維持・増幅がはかられる(Cell,2000)。 (4)サイトカイン(IL-3)依存性細胞株(BaF細胞)にアミノ酸変異により構成的に活性化されたTIE2受容体を導入すると、この細胞は、サイトカイン非存在下に長期生存を示した。TIE2シグナルが、アポトーシス回避などにより細胞を生存させている要素も存在するが、細胞接着亢進により、その細胞周期を修飾している可能性がある。造血幹細胞がストローマ細胞あるいは細胞基質に接着して、ニッシェを形成していることは十分に考えられる。
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