研究課題
基盤研究(A)
脊椎動物の頭部顔面発生は、脳となる神経板前方部、その領域に由来する神経堤細胞、頭部中胚葉、および前腸内胚葉などの複数の組織から形成される。この頭部の発生機構を理解することは、先天異常の理解に繋がるだけでなく、喪失された頭部顔面の再建治療に対する基礎的データを提供する。本研究によって得られた主な知見は以下の通りである。1.下顎の形成は、第一鰓弓基部の口腔側における外胚葉および前腸内胚葉由来の上皮と、中脳後方部神経堤細胞由来の間葉の相互作用によって起きる。2.歯胚発生は、外胚葉由来の口腔上皮、頭部神経堤細胞および前腸内胚葉由来の上皮が出会う領域で開始される。3.腺性下垂体は、神経板のすぐ直前に局在する外胚葉が、将来的に腹側へと位置を変えて前腸内胚葉と接して口咽頭膜となった後にラトケ嚢として陥入し、腺性下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンの産生細胞へと分化する。4.頭蓋冠の主な成長の場である頭蓋冠縫合部は、神経堤細胞に由来する骨と中胚葉由来する骨の境界に形成される。また骨の発生は、大脳半球力が後方へと成長する際に、神経堤細胞由来の髄膜層が引っ張られて骨形成層を裏打ちするようになる直後に起きると考えられる。5.発生に不可欠な細胞の増殖・分化・成長と、そのための転写調節が細胞レベルで密接に関連している。これらは、上述の組織が単独に頭音器官を形成するのではなく、複数の組織が、時間的・空間的に特異的な相互作用することによって器官形成が開始されることを示す、または強く示唆するものであった。これはMeinhardtが提唱した、複数の組織の境界部分に位置情報が設定されて器官形成が開始するという仮説を支持する物であった。今後の課題は、この相互作用の中心的な役割を果たす分子の同定やその分子の発現調節、および相互作用の過程について検討することである。
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