研究概要 |
1.ヒト唾液腺癌細胞を分化誘導剤ベスナリノン(3,4-dihydro-6-[4-(3,4)-dimethoxbenzoyl-1-piperazinyl]-2(1H)-quinolinone)で処理して誘導される転写調節因子TSC-22の構造と機能について、以下の諸点を明らかにした。 (1)TSC-22のdown-regulationは、in vitro、in vivoにおける唾液腺癌、口腔扁平上皮癌の細胞増殖を著明に促進した。一方、TSC-22の過剰発現は、ヒト唾液腺癌細胞の足場非依存性増殖を有意に抑制した。 (2)TSC-22タンパクの過剰発現は、アポトーシスの誘導を介して抗癌剤(5-Fu,CDDP,BLM)及び放射線の感受性を増強した。この場合、アポトーシスの誘導はTSC-22タンパクの細胞質から核へのtranslocationと関連していた。(3)TSC-22は酵母及び哺乳動物細胞において、転写活性化能を保有していなかった。 2.ヒト唾液腺癌細胞(TYS)はmutant p53(codon281^<Asp→His>)を保有し、TGF-βレセプター(I,II,III)を発現している。in vitro,in vivoで増殖しているTYS細胞をベスナリノンで処理すると、p53のdown-regulationとp21^<WAF1>及びp27^<kip1>並びにTGF-β1のup-regulationをNorthern blotting及びWestern blottingにより検出し、TYS細胞の分化・アポトーシスとの関連性が示唆された。一方、他のヒト唾液腺癌細胞(HSG,HSG-AZA1,HSG-AZA3)のp53は野生型であるが、ベスナリノン処理によりp53のdown-regulationが検出された。なお、ベスナリノンが投与された頭頸部癌(唾液腺癌と口腔扁平上皮癌)においても、p53,p21^<WAF1>,p27^<kip1>の発現動態は同様であった。
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