研究概要 |
一般に,ニューロンは脳虚血に対して脆弱であり,再開通後にアポトーシス様あるいはネクローシス様のニューロン死が惹起されることが知られている.一方,アストロサイトをはじめとするグリア細胞はこのようなストレスに対して抵抗性を示し,様々な因子(IL-6やニューロトロフィンなと)を産生することでニューロンの保護や自身の増殖を促す.このようにニューロンとグリアでは虚血ストレスに対する反応がまったく異なっており,ストレス受容機構あるいはストレス反応機構に違いがあることが予想される.また,ストレス蛋白質であるHSP70やGRP78などが脳虚血ストレス負荷によって発現することが明らかとなっている.そこで私たちは,これらの蛋白質をはじめとする脳虚血によって誘導または産生が亢進する分子に注目し,ラット初代培養アストロサイトに対して虚血ストレスの一つである低酸素(2%,O2)/再酸素化ストレスを負荷し,その発現様式と機構について解析した.まず,低酸素/再酸素化ストレス負荷による各種ストレス蛋白質の誘導についてウェスタンブロット解析を行った.低酸素48時間処理後,再酸素化に伴って,HSP70は低酸素48時間後からその発現が若干増加し,その後,再酸素化48時間まで増加し続けた.一方,この時,HSP27に変動はまったく見られなかった.つぎに,そのmRNA発現についてRT-PCR法によって調べた.HSP70mRNAは低酸素負荷後48時間から有意な上昇が認められ,低酸素負荷後6時間まで高レベルを維持し,12時間ではbasalレベルに戻っていた.これらのことから,HSP70の低酸素/再酸素化ストレス負荷による発現の上昇は,低酸素ストレスによるものであることが示唆された.これらの発現機構に対してどのような細胞内情報伝達系が関与しているのか,種々の阻害薬を用いて検討をしたところ,p38MAP kinase選択的阻害薬であるSB203580処理によって,低酸素ストレスによるHSP70発現が濃度依存的に抑制されることを見い出した.さらには,低酸素ストレスはp38MAP kinaseの持続的な活性化を引き起こすことを明らかにした.したがって,低酸素ストレスはp38MAP kinaseを介してHSP70発現を誘導することが示唆された.
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