研究概要 |
ニューロンは脳虚血に対して脆弱であり,再開通後に遅延性のアポトーシス様あるいはネクローシス様のニューロン死が惹起されることが知られている.このニューロン死にアストロサイト由来因子の関与が指摘されている.つまり,虚血に伴ってグリアでサイトカインが産生され,ニューロン栄養因子として作用する一方で,それらの作用によって致死因子も新たにグリアにおいて産生されることが明らかにされている.その一つとして,アストロサイトにおいて誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)に由来するNOが挙げられる.今年度,私たちはNOがどのような機構でニューロン死を惹起するのか,その詳細なメカニズムを検討し,以下の新知見を得た.iNOS由来のNOは持続的に産生されることから,NOドナーとして半減期の長い(約18時間)NOC18を使用した.また,ニューロンモデル細胞としてヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yを用いた.NOは時間,濃度依存的に著しい細胞生存率の低下をもたらせた.この時,クロマチンの凝縮・断片化,DNAラダー,低DNA含有細胞の増加が観察されたことから,NOによる細胞死はアポトーシス様であることがわかった.さらに,NOによってカスパーゼ特異的基質ペプチド(カスパーゼ3様プロテアーゼ)水解活性が上昇したこと,また,NOによるDNA断片化はカスパーゼ阻害薬によって完全に抑制されることがわかった.このことはNOによるニューロンアポトーシスにカスパーゼ系が関与していることを示唆している.つぎに,NOによって活性化されるカスパーゼのサブタイプについてウェスタンブロット解析から調べたところ,前躯体カスパーゼ-2が時間依存的に減少することがわかった.最近,カスパーゼ系の活性化の初期段階において,ミトコンドリアからのチトクロームCの漏出が認められ,これがApaf-1とともにカスパーゼ-9を活性化することでアポトーシスが惹起されることが解明されつつある.本系においても,同様の減少が起こっているか否か調べたところ,ミトコンドリア画分におけるチトクロームCの減少と細胞質画分における増加が観察された.したがって,NOはミトコンドリアからチトクロームC漏出を引き起こし,その結果,カスパーゼ系(とくにカスパーゼ-2)を活性化し,アポトーシスを惹起していることが示唆された.
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