研究概要 |
私たちは脳虚血あるいは低酸素ストレスを負荷したラット脳や初代培養グリア細胞において,これらのストレスによって発現が誘導され,その抵抗性に関わる因子の単離・同定を行った.低酸素ストレスはニューロンを速やかにアポトーシスに導くが,グリア細胞は本ストレスに対して抵抗性を示し,生存率に有意な変化をもたらさない.このことからストレス処理した細胞において何らかの抵抗性因子が発現している可能性があると考え,可溶性画分を調製し,二次元電気泳動・銀染色を行って,発現量が変化する蛋白質の特定を試みた.すると,数種の蛋白質量が低酸素ストレス負荷によって増加していることが明かとなった.これらの中,55kDa蛋白質についてN末端アミノ酸分析を行った.シークエンス終了後,得られた情報を元にホモロジー検索を行ったところ,本蛋白質はprotein-disulfide isomerase(PDI)と完全に一致していることがわかった.PDIは脳虚血ラットの大脳皮質のアストロサイトに主に誘導されることも明かとなった.PDI誘導が低酸素ストレスによる細胞死に対して抵抗性を示すか否か,ヒト神経芽細胞腫SK-N-MC細胞とラット海馬脳に一過性に発現させて,その影響を調べた.SK-N-MC細胞にPDIを発現させると,低酸素によるアポトーシスが著明に抑制された.さらに,海馬CA1領域にPDIをelectroporation法で発現させたところ,脳虚血による海馬における遅延性ニューロン死が有意に減弱した.これらのことから,ストレスに応じて発現・誘導するPDIは抵抗性の獲得に寄与しており,細胞死防御因子として機能していることが示唆された.
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