研究概要 |
私たちはこれまでに脳虚血による1)ニューロン死惹起機構と2)グリア細胞において発現・誘導される抵抗性因子の単離について解析し,以下の新知見を得た.脳虚血に応じて,脳では様々な栄養因子を産生してニューロンを保護している一方,致死因子となる一酸化窒素合成酵素(iNOS)なども産生する.脳虚血時にNOは大量に産生され,脳虚血ストレスの一つである低酸素ストレスとともに,アポトーシス様のニューロン死を惹起する.これには,ミトコンドリアからのチトクロームC放出に伴うカスパーゼ系の活性化が深く関与していることを明らかにした.また,グリア細胞ではこのような細胞死は観察されず,種々のストレス応答蛋白質が誘導される.低酸素ストレスはp38MAPkinaseを介してHSP70やGRP78を誘導していることがわかった.さらに,二次元電気泳動およびN末端アミノ酸シークエンシングの結果から,グリア細胞において,protein-disulfide isomerase(PDI)が発現・誘導することを明らかにした.PDIは低酸素によって誘導されるが,虚血脳においては,大脳皮質のグリア細胞で誘導される.PDI誘導が低酸素ストレスによる細胞死に対して抵抗性を示すか否か,ヒト神経芽細胞腫SK-N-MC細胞とラット海馬脳に一過性に発現させて,その影響を調べた.SK-N-MC細胞にPDIを発現させると,低酸素によるアポトーシスが著明に抑制された.さらに,海馬CA1領域にPDIをelectroporation法で発現させたところ,脳虚血による海馬における遅延性ニューロン死が有意に減弱した.これらのことから,ストレスに応じて発現・誘導するPDIは抵抗性の獲得に寄与しており,細胞死防御因子として機能していることが示唆された.
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