研究概要 |
テロメラーゼ触媒サブユニットTERTのノックアウトマウスを作成した。第1世代のホモ欠失体は、期待通りにテロメラーゼ活性を持たなかったが、明らかな異常は認められなかった。このホモ欠失体同士を掛け合わせて、第2世代以降のホモ欠失体を作成すると、第5世代においてマウスは不妊となり、生殖細胞の著明な萎縮が見られた。また、体細胞においても、脱毛、白毛化、皮膚の萎縮など再生組織の増殖異常が観察された。 テロメア維持に関わる因子の同定は、出芽酵母で最もよく進んでいる。しかし、近年、出芽酵母でテロメラーゼの作用に重要な役割を果たしているCDC13のホモログが他のモデル生物では存在しないなど、テロメア機能に関する限り、出芽酵母が独特な進化を遂げた可能性があることを示す結果が報告されている。そこで、我々は、いまだテロメア機能に関わる因子が十分に明らかにされていない分裂酵母をモデルにテロメラーゼを中心としたテロメア維持機構について解析を試みた。分裂酵母ゲノムデータベースを検索し、出芽酵母とヒトで保存されているテロメア蛋白質Rap1のホモログSpRap1と出芽酵母で知られているテロメア蛋白質Rif1のホモログSpTap1を同定した。SpRap1は、他の生物同様、一つのmybドメインをもつことを特徴としており、既に知られている分裂酵母テロメアDNA結合蛋白質Taz1と結合し、おそらく間接的にテロメアDNAに結合する。rap1変異株ではテロメア長の伸長、テロメアサイレンシングの低下が観察された。SpTap1もTaz1を介して間接的にテロメアDNAに結合する。しかし、tap1変異株のテロメア表現型は弱く、軽度のテロメア長の延長が認められるものの、テロメアサイレンシングには大きな差は認められない。tap1rap1二重変異株は、テロメア長がそれぞれの単変異株に比べ付加的に伸長することから、これらの遺伝子はTaz1に結合して異なる経路でテロメア維持に関わるものと考えられる。ヒトゲノムデータベースにSpTap1,ScRif1と相同性を示す蛋白質をコードする遺伝子が存在するので、今後、この遺伝子についても解析をおこないたい。
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