実験動物(イモリ、マウス)の鼻腔から酵素拡散法を利用し、生体機能を保持したままの単一嗅細胞を単離した。その単一嗅細胞にパッチクランプ法を適用し、電気的活動(チャネル電流)を記録、匂い分子、あるいは電気刺激による刺激を行い、各チャネルの開口状況をモニターし、入力-出力特性を決定した。この入出力特性を元に、個々の細胞内情報変換要素の因子分解をする際のパラメターとする。一連の実験からアドレナリンが、この入-出力特性を調節することを示唆するデータを得た。すなわち、アドレナリンは嗅細胞の活動電位発生機構を司るイオンチャネルであるNaチャネルとT型Caチャネル両者をcAMPパスウエイを介してリン酸化することによって、活動電位発生機構を変化させることがわかった。これにより嗅細胞の入-出力特性が変化するので、アドレナリンが嗅覚系に及ぼす効果というのは「匂いに対するコントラスト」を増強ものであるらしい。 体内ホルモン環境と匂い受容の創刊に関連して、従来から女性の月経周期変動に伴い匂いの感受性が変化する可能性が経験的に知られてきた。しかしながら、従来の心理学的計測法ではこの変動を科学的に示した例は少ない。一つには、匂いの受け方は様々なファクターによって変動するので、月単位の変動をみるなどの長期間のモニターをする場合、心理学的計測がばらついてしまうことが理由に挙げられる。本研究では被験者サンプリングに細心の注意を払い、また、被験者の生活習慣までのモニターをすることでサンプリング制度を格段に向上させ、基礎体温測定によって月経周期をモニターしながら、各ステージにおける嗅覚受容能を測定した。その結果、周期内で有意な変動が示された。
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