研究課題
本研究は、ヒトの多因子性疾患であるアトピー性皮膚炎の発症を支配する遺伝子を、その動物モデルであるNC/Ngaマウスを用い、分子遺伝学的解析、および発生工学的解析により明らかにすることを目的としている。与えられた研究期間の間に、NC/Ngaマウスと日本産野生マウス由来の近交系MSMとで戻し交配分離個体系約600頭を作成し、個体ごとに皮膚炎の発症、血中IgE値を測定し、それぞれについてマイクロサテライトマーカーとのその連鎖を見た。その結果、皮膚炎発症と血中IgE値の間に連鎖的相関は見られなかった。さらに、皮膚炎を重度に発症した分離個体および高いIgE値を示した個体の肝臓より核DNAを抽出し、各染色体につき20cM間隔の染色体特異的マイクロサテライトマーカーを用いて遺伝子タイピングとQTL解析を行った。その結果、高IgE血症の発症に関しては、有意水準に存在するQTLは発見できなかった。これは、NC/Ngaの血中IgE濃度が他のマウスと比べ、異常に高いことに起因することが判明した。一方、皮膚炎発症に関しては、有意水準以上のQTLをマウス第9染色体上に発見し、その遺伝子座をdermlと命名した。今年度は引き続き、このderml領域近傍に存在する免疫現象に関与する遺伝子座をデータベースにより検索し、候補と思われる遺伝子のcDNAを用いて、SNP解析とdermlに関する連鎖解析、およびラディエーションハイブリッドパネルによる解析を併用して行った。このデータをもとに現在までのところ、発見されたderml遺伝子座の候補となるものは得られておらず、引き続き解析を続行中である。また、このderml領域のより詳細な連鎖解析を行うために、dermlに対するNC/Nga、およびMSM/Msバックグラウンドのコンジェニックマウスを開発しており、現在それらのコンジェニックマウスでの皮膚炎発症の有無を観察している。本研究組織は本年度で終了するが、これまでに得られた成果をもとにこの研究は引き続き進めてゆく予定である。
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