研究課題
基盤研究(A)
近年、音波レーダー、レーザーレーダーに加えて比較的小規模のレーダーを大気力学観測へ応用する実験的試みが世界的に行われている。レーダーは天候等に左右されず高精度かつ高時間/高度分解能で大気の動態を明らかにできる最も適したリモートセンシング法の一つである。境界層を観測するレーダーは特に「境界層レーダー」と呼称されており、国内数ヶ所でそれを用いた観測が行われているが、現在、もう少し大型で下部対流圏の重要部分をカバーするレーダーが必要とされている。本研究では下部対流圏全域を観測可能なLパンドの可搬型「下部対流圏レーダー」(LTR=Lower Troposphere Radar)を開発することを目的とする。本年度は、まず、下部対流圏レーダーのシステム設計を行った。レーダーシステムの特徴は次の通りである。●レーダー方式は我々がMUレーダーやSパンド境界層レーダーで培ったアクティブフェーズドアレイ方式を採用している。●アンテナ系は軽量な4m×4mの平面アンテナ一面とし、4分割可能な構造としている。●送信系は、送信出力2kW、送信機帯域10MHz、デューティ比約20%としている。●信号処理系は、安定動作・操作の簡便さ・長時間のデータ記録等に留意した仕様となっており、主な演算装置としてはDSP装置とワークステーションを利用している。次いで、セミアクティブフェーズドアレイ方式のLパンド小型・軽量平面アンテナを設計製作した。アンテナ素子には、近年普及の著しい簡易携帯電話(PHS)基地局用の電磁結合同軸ダイポールアンテナを用いている。制作の完了したアンテナを信楽MU観測所に運び込み、試験し、設計通りの特性が得られていることを確認した。アンテナの設計制作と並行して、DSP及びワークステーション用の観測ソフトウェアの開発を行った。レーダー装置と組み合わせ、正しくレーダーを制御でき、観測データを取得できていることを確認した。