研究課題
基盤研究(A)
本研究の目的は、大気・堆積物など地球化学的試料中に存在するバイオマーカー分子に着目しそこに含まれる14Cの濃度を加速器質量分析計(AMS)にて測定するために、バイオマーカーを数十マイクログラムのオーダーで個別分子種ごとに分け取るするための分離・濃縮システムを製作すると共に、この方法を実際の試料に応用し新たな地球化学的議論を展開することにあった。本年度は、昨年度までに開発した分取キャピラリーガスクロマトグラフ(PCGC)システムを用いて、札幌で採取したエアロゾル試料中の脂肪酸の分離と精製、および個別脂肪酸の14C測定の結果を国際誌(アメリカ地球物理学連合、Geophys. Res. Lett.)に発表した。放射性炭素の濃度測定の結果は、パルミチン酸(C16)やC18-C22の脂肪酸の場合にmodern carbonであったのに対し、C24+C26脂肪酸では5860(±200)年、C28+C30+C32脂肪酸では271(±120)年という年代値が得られた。C16やC18-C22の脂肪酸は、現在生息している生物から直接大気中に放出される有機物が主であるのに対し、C24以上の脂肪酸は過去に生産されたものであり土壌中に数百年から数千年の間滞留した後に大気中に放出されたものであろう。試料採取点に近い土壌試料を採取し、その脂肪酸の分離を行い、放射性炭素の測定を行った結果、周辺土壌の脂肪酸の年代は現代の値を示しており、大気中で認められた古い年代の脂肪酸はローカルなソースからではないことがわかった。また、エアロゾル試料に対して同時に測定した安定炭素同位体比の結果は、C16-C22の脂肪酸が海洋の植物プランクトンに由来するのに対し、C20より高分子の脂肪酸は陸上植物によって生産されたものであることがわかった。以上の結果から、高分子脂肪酸の一部は、中国大陸などで生産されたものが、黄砂とともに日本まで運ばれてきた可能性が指摘された。堆積物試料から分離した脂肪酸についても、14C測定を実施するためにグラファイトターゲットを作成した。
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