研究概要 |
筆者らの研究室では従来の合成法とは全く異なる新しい合成戦略によりタキソールの不斉全合成を1997年に達成した。本課題ではこの方法の効率の向上ならびに18位あるいは19位にヒドロキシ基を有するタキソール類縁体の合成を目的として研究を行い、水に対する難溶性が問題となっているタキソールの溶解能の向上を図ることを計画した。 これまでのL-セリンを用いる合成ルートではα-アルコキシアルデヒドを経由する工程で光学純度の低下を伴うことがあるので大量スケールで反応を行うことが困難であったが、D-パントラクトンを出発物として用いる新しい合成ルートを開発することにより、その光学純度を全く損なうことなく鍵化合物である8員環状化合物へ誘導することが可能になった。 次いで、18位にヒドロキシ基を有するタキソール類縁体の合成を達成するために8員環状ケトンに対しアセトキシ酢酸メチルのジエノラートを付加させ、さらに炭素1位と2位のヒドロキシ基を架橋保護することによりタキソールAB環部のモデル前駆体を調製した。この化合物に対してフッ化セシウムを作用させたところ分子内Knoevenagel反応が円滑に進行し、18位にヒドロキシ基をもつタキソール類縁体の基本骨格が90%を越える収率で得られることが分かった。 また、炭素19位にヒドロキシ基をもつタキソール類縁体の合成法として、我々の研究室で開発したヨウ化サマリウムを反応促進剤に用いるビスアルドール形成反応、すなわち、α,β-エポキシケトン類から調製されるジサマリウムアルコキシエノラートとアルデヒドとのアルドール反応を分子内に適用することにより、環化と二つの水酸基の導入を一挙に行い、19-ヒドロキシタキソールの8員環部およびBC環部が効率良く得られることを明らかにした。
|