物質中(金属等の結晶性物質、高分子ポリマー等の非晶物質)中の原子空孔型欠陥(高分子の場合には、自由体積)の濃度、寸法を敏感に検出する能力を有する陽電子消滅法を、従来の「静的観測法」から「動的観測法」に拡大することを目的として、本研究を進めた。この試みは、世界で最初のものであり、高速アナログ-デジタル変換技術と多変量相関データ収集技術の最近の急速な発展をいち早く採用することにより実現可能となった研究提案である。時間分解型陽電子消滅測定法の新開発により、原子のミクロな動的情報を得ることを目的としている。 本研究で実現しようとしている時間分解陽電子消滅測定は、陽電子の物質中での寿命が数100ピコ秒であることに着目し、数100MHz以下の周期的変動刺激を物質に与えつつ、物質の「動的なミクロ状態変化」をリアルタイムで検出するものである。平成10年度は、本研究代表者の周到な細部に至るまでの設計に基づき、現有機器(陽電子寿命測定装置、消滅ガンマ線ドップラー広がり測定装置、エネルギー可変単色パルス陽電子発生装置)に、新規購入品を組み込み、時間分解測定法装置の準備を進めた。この目的で、空冷式小型冷水機、超高真空排気装置、デジタル・オシロスコープ、高速アナログ-デジタル変換器等の導入を行った。これと並行して、陽電子線源の導入も行った。これらの導入により、(1)時間分解型陽電子消滅測定システムの組み上げ・調整、(2)時間分解型測定のC++ビルダーによる計測ソフトウェアの開発、(3)実験から得られる多変量データに対応する解析ソフトウェア、を実施し、当初の計画の通り、次年度に予定している本格測定試験の準備を完了させることができた。
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