研究概要 |
オーステンパ球状黒鉛鋳鉄は、基地中の共晶セル境界近傍に残存する未変態オーステナイト(γプール)が、負荷により、脆性なマルテンサイトに容易に変態し、力学的特性に悪影響を与えることが知られている。これに対して、本研究では、Niを添加した球状黒鉛鋳鉄に対し、オーステンパ処理中に加工を加えてγプールを消滅させ、従来のADIよりも高い靭性を得た。本年度は、C 3.40%,Si 2.81%,Mn 0.14%の普通球状黒鉛鋳鉄を用い、より広範な加工熱処理条件におけるADIの力学的特性について基礎的調査を行った。 通常のオーステンパ処理を基本として、オーステンパ温度(TMT-AF),オーステナイト化温度(TMT-γ)および両方の温度(TMT-γAF)に圧延を施す3種類の加工熱処理を行った。オーステンパ温度は、623,653 Kの2水準とし、圧下率並びにオーステンパ時間は、任意に変化させた。 その結果、いずれの加工熱処理材においても、通常のADIに比べ、短いオーステンパ時間で最適な吸収エネルギーが得られた。オーステナイト化温度で圧延を施すTMT-γ材は、圧下率の増大に伴い、硬さは若干の低下を示すが、吸収エネルギーは増加する。オーステンパ温度で圧延を施したTMT-AF材とオーステナイト化温度及びオーステンパ温度の両温度で圧延を施したTMT-γAF材は、圧下率の増大に伴い、吸収エネルギー及び硬さのいずれも増加する傾向を示した。オーステンバ温度の増加にともないTMT-γ材では、吸収エネルギーは増加するが、硬さは低下した。一方、TMT-γAF,TMT-AF材では、オーステンパ温度による変化は、見られなかった。このように、圧下率、オーステンパ処理の温度および時間を調整することで、破壊じん性が大きく向上する場合がある事が明らかとなった。
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