研究概要 |
本来再生能力を示さない哺乳類の視神経も、末梢神経中のSchwann細胞により神経再生が誘導される。このことに着目し、培養Schwann細胞を主成分とした人工移植片を開発し視神経再生を誘導させ、最終的に視神経回路網再構築させることが本研究の目的である。本年度は人工移植片を用いて視神経-上丘間の架橋手術を行い、電子顕微鏡により形態学的に中枢投射である上丘における再生の解析を行うとともに、In vivo electroporation法を用いた網膜神経節細胞への遺伝子および蛋白の導入法を確立し、網膜神経節細胞の保護効果及び救済率を評価した。新生仔ラット脊髄後根神経節より単離培養したSchwann細胞に細胞外気質成分、各種神経成長因子を組み合わせた移植片を切断視神経に移植することにより、BDNF,CNTFの硝子体注入と合わせて高い視神経再生率(30.28±16.97%,54.32±8.005%)を得ることが可能であった。この再生最適条件をもとに、長さ約1.5cmの半透膜チューブに培養Schwann細胞を充填し、それを左眼球側視神経切断端と右上丘との間に架橋手術し、硝子体へBDNF,CNTF,insulin,forskolinを投与した。術後三ヶ月目に網膜神経節細胞を逆行性標識し再生率を求める実験の個体数をさらに増やすことにより18.1±0.11%という非常に高い再生率を得ることが可能であった。また、硝子体中にCTB-HRPを投与し免疫電顕を用いて観察することにより、移植片内の再生神経線維を順行性に標識することが可能であった。さらに我々は、網膜神経節細胞に保護効果のあるBDNF遺伝子やアポトーシスを抑制するheat shock proteinをIn vivo electroporation法により効果的に網膜神経節細胞に導入することに成功した。その結果、視神経切断モデルにおいては、BDNF遺伝子導入により、切断後の網膜神経節細胞死に対する救済率約55%を得ることができた。網膜虚血再還流モデルにおいては、heat shock proteinの導入により細胞死を有意に減少させることに成功した。
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