研究課題
基盤研究(A)
現在、歯科領域において透視診断法の主力として用いられているX線CTならびにMRIでは、患者に対して電離放射線や強磁場など払拭しきれない不安が存在している。Coherent Detection Imaging(CDI)は光ヘテロダイン法に基づく分光学的断層撮影法であり、自然界では普段存在している可視光線を線源としているので上記の懸念が全くなく、しかも生体内を色彩に依存した画像として再現し得るこれまでにない透視法として近年注目されている。本研究ではCDIによるヒト抜去歯の光断層像を取得し、臨床上における有用性を評価した。光源として、単一周波数モード半導体(532nm)レーザーを用いた。試料として10歯のヒト健全抜去歯を用いた。試料に照射されるレーザー光強度は1mW以下、撮影時間は1試料あたりおよそ20分であった。光ヘテロダイン法ではあらかじめレーザービームを2分割してそれぞれを変調(80および100MHz)、一方を試料に通過させたのちもう一方と波面整合を行うことにより背景散乱光の影響を排除し、空間分解能を伴う生体の光学的密度を測定する手法である。CDIでは上記の分光計測法にX線CTの画像構成アルゴリズムを適用して光断層像を得る。計測後、試料を薄切(200μm)し光断層像との比較を行った。光断層像では実際の薄切像と相同して歯髄腔および根管形態が良好に再現されしかもX線法では得ることができない象牙質中における透明化した部位や象牙細管走行に伴う紋様および着色による濃淡による組織変化、さらに歯髄腔内における石灰化部位を検知できた。以上の知見により、光CTは齲蝕や抗生物質投与による硬組織変色など、X線法では検知されなかった象牙質の着色や透明化を伴う病変を診断し得る能力を有することが実証された。本透視法は将来的には歯科以外の分野でも応用可能であり、生体に何ら為害作用を及ぼさない安全なレベルの可視光レーザーを用いているので運用には特別の資格を必要としない。将来的には誰でも手軽に用いることのできる診断ツールとして、杜会における幅広い利用が期待される。