研究概要 |
(1) 申請者らは世界で初めてマウスのmtDNA欠損細胞(p^0細胞)の樹立に成功し、今年度はこの細胞にマウスの脳神経系のmtDNAを導入する実験系を確立した(Ito,S.,et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.1998)。この過程で、脳のmtDNAはマウスの死後30日たっても、p^0細胞の中に導入するとその複製と遺伝子発現が回復することが認められ、その後更に実際に老化したヒトの脳に応用できることも明らかになり、その成果は近日中に公表できる見込みである(Ito,S,et al,Proc Natl Acad Sci USA,1999,in press). (2) ヒトの老化にともなう線維芽細胞の呼吸機能低下の原因は、ミトコンドリア翻訳にかかわる核コードの因子の劣性突然変異によることを、核移植の実験によって突き止めた(Isobe,K.,et al.J,Biol.Chem.,1998). (3) ごく最近当初の目的である人工的に突然変異を導入したマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し、このベクターのミトコンドリアへ導入法等の確立に全力をあげているところである. (4) mtDNA突然変異の病原性と発病の機構の解明および治療薬のスクリーニングには、ミトコンドリアノックアウトによるミトコンドリア疾患モデルマウスの確立が極めて有効である.しかしながら技術的な障害により、未だ成功した報告はない.このような状況の中で、申請者らはマウスのp^0細胞に病原性突然変異を持つmtDNAの導入することのみならず、導入したmtDNAを更にマウスの受精卵に導入することにも成功し、本申請の主要な目的である“mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現できる見通しがでてきた. (5) 様々なヒトの病原性突然変異mtDNAを導入したHeLa細胞を使って、ミトコンドリアでこれまで考えられてきた常識を覆えず事実、すなわち“細胞内のミトコンドリアは機能的には単一である"という新しい仮説を提唱し、遺伝学の基礎的分野にも大きく貢献することができた(Takai.D.,et al.J.Biol.Chem.,1999,in press).
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