私は、本研究テーマに関しては、この2年間に、「アリストテレスの奴隷論-その正当化と論理と、超克の可能性-」(『思想』第893号、44-64頁、1998年11月、岩波書店)、「アリストテレスの『政治学』における市民と国制の概念」(『論叢』第92号[聖心女子大学創立50周年記念論文集]、9-36頁、1999年2月)、「現代の政治哲学における基本的論点と問題点」(1999年度中世哲学会シンポジウム[国家と正義]提題論文、『中世思想研究』第42号掲載予定)の3本の論文を執筆した。第一、第二論文については前年度の概要で触れたので、第三論文についてのみ論ずる。現代は文化的多元論の時代であるから、これを保証する国家論が要請される。ロールズの正義論は、正義の普遍性に対して善の多様性を前提とする点で、まさにこの要請に応えるものである。これに対して、テイラー、サンデルなどの共同体論者は、人間は共同体的伝統の中で生きるべきであり、そこには普遍的価値が生きている、と主張する。このように、現代の政治哲学は個人主義的方向と伝統主義的方向とに二分して進んでいる。
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