本研究の目的は、能動的注意(とくに視空間への能動的注意)の脳内再現様式と脳内モノアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン)の役割を霊長類を用いて明らかにすることにある。 この目的のため、前年度は、「前頭連合野が視空間性能動的注意に関与する」という仮説をムシモールによる「可逆的局所機能脱落法」と「眼球運動による視覚探索課題」を組み合わせてサルで調べ、前頭連合野背外側部が視空間性の能動的注意をトポグラフィックに再現することを明らかにした。今年度は、この成果を踏まえ、能動的注意を再現する前頭連合野領域に各種モノアミン受容体阻害剤を局所投与し、視覚探索課題遂行への効果を解析した。すなわち、2頭のサルに眼球運動による視覚探索課題とそのコントロール課題を訓練した。そして、サルがこれらの行動課題を行なっている際に、微量のモノアミン受容体阻害剤(24μg、3μl)を前頭連合野背外側部の局所部位に注入し、課題遂行がいかに変化するかを調べた。今年度は、モノアミンのなかでも、とくにドーパミンとノルアドレナリンに注目し、D1、D2、α1、α2、β受容体の阻害剤を用いた。その結果、以下の知見が得られた: 1)α2受容体阻害剤(yohimbine)によって視覚探索課題のみが特異的に障害されること。 2)その障害は、眼球運動の乱れ、最初に行うサッカードとターゲットの位置とのずれ、ならびに探索時間の増加を特徴とすること。 3)他の受容体阻害剤は、どちらの課題遂行にもはっきりした効果をもたないこと。 これらの結果から、前頭連合野背外側部でのノルアドレナリンα2受容体の賦活が、視空間性の能動的注意の働きに必須であることが明らかになった。
|