研究概要 |
本年度は,脳損傷により生じた認知機能障害が,概念達成にどのような障害様相を示すかを中心に2つの研究を実施した。第1の研究は「脳損傷者の視覚的統合に関する研究」で,日常具体物の線画をパソコン上に要素呈示し,統合されるべき線画領域がもつ親近性や有意味性といったトップダウン的概念情報を利用した要素統合能力の不全特性を,左右各半球に損傷を持つ患者群を対象に検討した。その結果,左右いづれの大脳半球損傷群でも健常群より視覚的統合の不全が認められ,特に,その傾向が右半球損傷群において顕著で,トップダウン的概念情報に基づく時空間的統合より,ワーキングメモリー内の要素の時空間的統合が,このような課題では強く働くことが認められた。第2は「弁別学習過程に反映される障害特性の研究」で,概念学習の課題遂行中の行動特徴という観点から明らかにするため,弁別移行学習における下位問題分析や誤答反応分析等の過程分析から障害特性を明らかにし,認知的リハビリテーションの方法を検討した。その結果,左半球損傷群の下位学習過程や誤反応パターンは右半球損傷群のそれらとは異なっており,言語媒介機能の欠如を反映していることを示唆するものであった。さらに,このような左損傷患者の認知障害特性を補うような失語者の読字のリハビリテーションについての可能性をパイロット研究として実行中である。
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