研究概要 |
本研究は,ストレス-コーピング病気罹患性モデル(Steptoe,1991)を理論的枠組みとして,実験的-フィールド研究の方法論に基づいて,ストレスの状態と心理生物学的ストレス反応との関連性について解明することを目的としたものである.本年度は実験室場面でのメンタルストレステストに対する心理生物学的ストレス反応性を検討して以下のような知見を得ることができた. 1.心臓血管系反応性 トノメトリ法によって,メンタルストレステスト(9分間のストループ干渉課題)の負荷によって収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍がいずれも有意に上昇し,負荷終了時に徐々に基準値まで戻った. 2.唾液分泌型免疫グロブリンA抗体(s-lgA)と唾液free-3-methoxy-4-hydroxyphenylethyleneglycol(MHPG)の反応性 s-lgAをネフェロメトリー法により測定した.s-lgAはメンタルストレステストを負荷しても有意な変化を認めなかったが,個人差が大きかった.ノルアドレナリン系神経活動については,free-MHPGをガスマス法で測定することで評価した.free-MHPGはメンタルストレス負荷時に有意に上昇し,回復期に基準値に回復した. 3.主観的ストレス反応性 メンタルストレステストの負荷によるストレスの自覚を自己記述式の質問表で評価した.ストレス負荷によってエネルギー覚醒が低下した.思考スタイルについては,自己注目,自尊心が低下し,コントロール感が上昇した.思考内容の変化は課題関連妨害思考が増大し,課題無関連妨害思考が減少した.メンタルワークについての仕事負担評定では精神的負担,時間的プレッシャー,努力,フラストレーションがいずれも高値を示した. 4.ストレスの状態と作業成績の関連 作業成績と心理生物学的ストレス反応性との関連性を検討したところ,メンタルストレステスト負荷中にs-lgAが高値を示す人は,低値の人に比べ作業成績が高かった. 今後は,これら心理生物学的ストレス反応性が,個人の日常生活の健康行動やストレス状態によって異なってくるかどうかを明らかにすることが残された課題といえる.
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