本研究は視覚障害乳児・児童に対する歩行訓練の有効性を検討した。また、視覚障害乳児・幼児への歩行訓練に役立つ訓練用具の検討を行った。第1章では視覚障害児が行う空間認知の特徴について考察した。視覚障害児は大スケール空間において、遠方の対象物の空間的更新が困難になるという特徴を持っている。この問題を克服する方法として第1章と第2章ではバンジー訓練が提案された。バンジー訓練とは視覚障害児と対象との間を長いゴムひもでつなぎ、身体移動に伴う身体と対象との位置関係の変化を理解しやすくする訓練方法であった。第2章で示したようにバンジー訓練の効果は明確に示され、小学校就学前の視覚障害児であっても、空間認知が適切に行われるようになった。第3章と第4章では成人の歩行訓練とリハビリテーションでの最新の指導方法を示した。こうした成人向けの歩行訓練方法を子どもに適応するために、第6章では、視覚障害乳児・児童の歩行訓練カリキュラム案を示した。成人の場合との相違点は、子どもの興味を引き出し、子どもに日常的な空間的経験を積ませることであった。また第6章では本研究を通じて開発された歩行補助具が紹介されている。「キリン」「ポチ」「トンボ」などと命名された歩行補助具や、「マツタケ」と命名された白杖用石突きが写真と共に示されている。第5章では一人の子どもの身体運動発達をデジタル化し克明に記録することで、視覚障害児の運動発達の尺度を構成し、他の視覚障害児の運動発達をこの尺度に関連づけて相対化することを目的とした。歩行やケンケン等7種類の身体運動が測定された。視覚障害児の運動姿勢には、重心が身体の後ろに残るという特徴が示された。尺度については視覚障害児の身体運動の記録がとれた期間が2年ほどであり、より長期的な取り組みが必要なことが求められるが、視覚障害児の移動をはかる方法の一つとして利用できると考察された。
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