本研究は、組織内の昇進の仕組みとキャリア形成に関する日米比較を行うことを目的とする。本年度は日米企業の人事データベースの最終的なコーディング作業を終了させることと、すでに行ってきた分析を学術論文の形でまとめ上げる作業に集中した。コーディング作業は、役職、職能資格、地域については終了したが、職務・部門コードについては、その情報があまりに詳細なため、完全な形でコーディング作業は終了していない。しかし、不充分ながらも、日本の1964年、65年、66年、67年、72年、77年、82年入社コーホートについては、社員全員の詳細な職務・部門コードの変遷を完全に再現したデータファイルをつくることができた。 今年度の分析により明らかになった知見をまとめると以下のようになる。組織内の動機付けの仕組みと管理職養成、選抜のメカニズムに関して、理論的に考えられる選抜モデルを構築し、それらが日米企業内における実際の選抜過程をどの程度説明できるかを検証した。ここで取り上げたモデルは「遅い選抜モデル」「トーナメントモデル」「庇護移動モデル」「競争移動モデル」「入り口での選抜モデル」などである。日本では「遅い選抜モデル」が支持されるのに対して、アメリカでは入社後早い段階から選抜が行われている。選抜の仕組みに関しては、入社後の第1次選抜からすでに「昇進競争に参加できない有能でないと判断された」少数の社員が選抜され、別のトラックにおかれる。これらの社員はその後の第2次、第3次の選抜においても一貫して選抜競争で不利な立場におかれている。このような少数の社員の「入り口での選抜」が日米企業ともに見られる。それ以外の社員に関しては、「競争移動モデル」が予測するように、早い時期での選抜の遅れをその後の選抜で取り戻すことができるリターンマッチの可能性が日米企業ともに見られる。
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