人工的自然環境とは人間が積極的に自然に関与した自然環境を意味する。人間が関与した結果、放置していた自然、すなわち人間の手の入らない“純粋の自然"よりも、よい自然環境を形成できた事例があるとするならば、それはどのような自然であり、それがどのような条件で成立したかを研究するのが本研究の課題である。この視点は今後の自然環境保全政策に役立つであろう。 この1年をかけて日本の各地をかなり広範囲に調査した。北は北海道の釧路(霧多布)湿原までも足をのばした。また、岐阜県郡上八幡町、東京都武蔵野などいくつかの場所の調査もした。ただ、主要には、奈良県の吉野山と京都の嵐山に本年はかなりのエネルギーをそそいだ。本年は3年計画の最初の年なので、歴史的に見て、人工的な自然環境を千年の長さで保全してきた吉野山と嵐山の景観保全の状態やその組織、保全している人たちの考え方などをかなり総合的に調査をした。 吉野山は桜の保全の状況を調査したのであるが、そこに典型的なひとつの傾向を見てとれる。吉野山は一円が桜であり、全部で3万五千本の桜の木があるという。もちろん、山桜が自然にこのように群落を形成したわけではなく、そこには千年におよぶ人間の介入がある。桜の木を植え、また桜の木を伐らないようにするために、信仰がひとつの大きな働きを持つているのであるが、それがどのように機能しているのかを調査中である。その後、近代に入り、「吉野山保勝会」が生まれる。これは観光のために保全をする側面がある。その後、桜トラストや地元の小学生が桜の種を取ってきて苗木を育てるというような環境保全の機能が加わってくる。このような調査の継続中である。
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