現在、私たちの国では、人工的な自然環境の評価については、揺れ動いている。すなわち定まった評価基準がない。その結果、環境対策においても、有効な手がうててないのが現状である。ここでいう人工的自然環境とは人が積極的に手を加えた自然環境をさす。 本研究は我が国の人工的自然環境の実体を現場に赴いて分析をするという方法をとり、この研究は本年で2年目であることによって、かなりの資料の蓄積を得ることができた。とくに吉野山に対しては比較的集中的な調査を行ったので、おおよその輪郭を描けるようになった。吉野山がなぜ我が国において、特殊な位置をもったのかという分析からはじめ、結果的になぜ桜の吉野山になったのかというその経緯について、来年度にかなり体系だった説明ができるまでの段階にいたった。とくに古代から奈良時代にかけて、吉野山が国の避難所(アジール)として機能した事実は、吉野山が水田稲作にとって不可欠な水を差配する山の神の鎮座する山として特殊な位置にあったことなどを本年は歴史的史料などの集積の過程で明らかにしている。 また、吉野山に限らず、日本のかなりの人工的自然環境の典型的と想定される地域のフィールド調査を行い、人工的自然環境が、それぞれの地域のまちづくりにおいて貴重な要素となっていること、それを地元の人たちは文字通り「自然」として受け取り、自分たちの身近な自然として生活上不可欠なものであることなどを本年度は実証的なデータをともなって明らかにすることができた。
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