研究課題
基盤研究(B)
本研究では、福祉教育とボランティア学習の現代的構造を多面的に考察しながら、さまざまな実践を捉え直す視点を構築した。主な知見は、以下の4点である。第一に、中学校・高校での多様な実践を質的に吟味することを通じて、福祉教育の理念と実践がきわめた多義的であることを明らかにした。第二に、多くの実践は、(1)きわめて操作主義的な子ども観を追認している、(2)社会のありように対する批判的・反省的なイマジネーションを欠いている、など(近代的な知)の枠組みを超え出ていない。第三に、一部の実践の中には、子どもたちの現実から実践を組み立て学校外の環境との相互作用を通して社会構造に影響を及ぼすような試みがみられる。そこでは、福祉教育を高齢者福祉の問題に矮小化したり「心の教育」に還元したりしない。報告書の中では、改革実践としていくつかの有意義な実践を紹介している。第四に、同じような試みは不登校の子どもたちを受け入れる民間の学び舎でもなされている。とくに、1990年代以降急速に普及しているフリースペースは、福祉教育を機械論的に捉えるのではなくむしろかれらとのかかわりの中で大人たちや地域も変わっていく可能性を示している。深い福祉教育はことのほか時間を要するものであり、しかも完全な成果を期待できるものとは限らない。福祉教育やボランティア学習が体系化されることで、実践の深さが犠牲になることに私たちは細心の注意を払わなければならない。そのためには、私たちが近代教育の呪縛の中で身体化してきたまなざしを根源的に転換する必要がある。多様な実践から学びつつ横のつながりをつけていくことに研究者自身がかかわっていくことがますます必要になっている。