研究課題
四年計画の4年目である平成13年度においては、全体の構成の検討を行い、最終報告書を作成した。研究分担者の課題は、前田が古代メソポタミアにおける民族統合、小林が古代ローマにおけるギリシア人、野口が中世カトリック教会における分化と統合、小倉が神聖ローマ帝国と帝国都市、大内がドイツ統合、松園がイングランドとスコットランドの統合、井内がポーランドとリトアニアの統合、森原が近世フランスにおける文化統合と「文芸共和国」、村井が北欧における国家統合と分化、竹本が合衆国黒人運動における分化と統合であった。研究成果報告書は印刷される予定であるので、詳細はそれに譲り、研究成果の一側面を示す。古典古代にはじまるヒューマニズムの理念、ローマ教会に体現される普遍的教会の理念とローマ帝国理念、さらには、人間理性の覚醒と「文芸共和国」という国境を越えた文化共同体、それらは、普遍的価値に裏打ちされたヨーロッパを求める動きととれる。宗教改革も、近代の国民国家の創成も、ヨーロッパを普遍的なものに基盤を置きたいという動きであって、統合の場を破壊する動きではないと見做しうる。また国民国家・民族国家形成以後の近代・現代の動向、一見分化の動きに見えるものが、より高度な統一の原理を求めるもしくは補強する意図に起因し、そのなかでのヘゲモニー争いと見做しうる事象といえる。ヨーロッパは、過去に築かれた伝統的な価値観や政治・社会の遺産の上に成り立っており、その歴史性を脱却してはいないであろう。しかし、歴史は変容を迫るものであり、その新しい事態を見極めることは至難である。そうであっても、この研究で示したような通時的な問題整理、すなわち歴史的考察が不可欠であることは間違いない。
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