研究課題
基盤研究(B)
今年度は、補助金交付以前から進めてきた正教蔵文庫の典籍の書誌データ(奥書・識語・刊記等を含む)の採取を八月に実行した。点数は文庫全体の四分の一に当たり、既採取分と合わせると四分の三までを終了したことになる。今回の調査で、正教蔵文庫本の蒐集者舜興の委嘱により相当数の筆写をしている善祐という人物について、江州野洲郡河原森に居住していたことを示す記事が奥書の中に見出された。同地は、舜興が住持をしていた芦浦観音寺とは至近の距離にある。従来厖大な量の本の書写がどこで行われたかはほとんど未詳であったが、これによって善祐の書写本は芦浦観音寺の周辺で製作されていたことが判明し、他の写本についても類推が可能となったことは特記すべき収穫であった。一方今年度は、採取した書誌データのコンピュータ(設備備品費で購入)への入力を開始、その整理校正の作業を通して、一般の古典籍研究や奥書の索引化とも共通する問題点が浮上してきた。例えば、著作を一点として認定する基準、複数の著作を合写(合綴)した本のデータ表示の方法、原本の用字の尊重とデータベース化のための表記の統一との矛盾、などである。それらの解決は多く今後の課題として残されているが、次年度以降正教蔵文庫本の調査と研究を進めて行く過程で、最も合理的な処理法を案出するよう努めたい。設備備品費で購入したデジタルカメラ・ノートパソコンおよびプリンターは、時期的に今年度の原本調査には間に合わなかったが、次年度からは類型性の強い舜興識語の比較や、写本の筆跡の分類などに活用する筈である。なお書誌データの採取は次年度前半でほぼ終了する見込みなので、それ以降はデータの入力と校正、記載方法の整理統一、他所所蔵資料との照合による奥書・識語データの補正、それらを踏まえた正教蔵文庫形成の総合的考察などに、作業の中心を漸次移して行く予定である。
すべて その他
すべて 文献書誌 (4件)