研究課題
平成12年度は、「中国における通俗文学の発展及びその影響」に関する研究の最終年度に当たるため、各メンバーは、これまでの成果に基づいて独自の角度から成果をまとめた。小南一郎は芸能に密接な関わりを持つことがあった「市人」という階層について考察を加え、都市における通俗文学の発展形態を跡づけた。金文京は京都大学人文科学研究所が所蔵する俗曲に関する目録を作成することで、これまで体系的にとらえられることの少なかった俗曲に関する文献学的考察を行い、将来の研究に不可欠な基礎作業を終えた。俗曲の構成や内容を実物に即して研究していく上で、この所蔵目録は大きな役割を果たすと考えられる。井波陵一は近代の文学理論に立脚した『紅楼夢』批評の展開について、民国時期の代表的な論文を取り上げることで、20世紀の中国で主流を占めた文学論と『紅楼夢』との関係を論じた。赤松紀彦は『改定元賢伝奇』を取り上げ、従来論じられることのなかった元雑劇の早期のテキストにつき、その由来および後世への影響を論じるとともに、他の諸テキストとの詳細な比較を行って、その意義を明確にした。井波律子は中国文学史の流れの中で、通俗文学の材料や作者がどのような位置を占めるかについて、作品論と作者論の両面から、通俗文学と一括されるジャンルの伝統と多様性を明らかにした。矢木毅は高麗が元朝に服属して中国との政治的な関係がかつてなく緊密化して以降、儀礼的応酬による君臣関係の確認という以上に、相互の内政問題にまで関わる外交交渉が頻繁に取り結ばれるようになってきた際、従来のようないわゆる「漢文」の能力とは別個に、全く次元を異にする新しい言語能力が必要とされるようになってきた点を、文献資料に基づいて跡づけた。濱田麻矢は抗日戦争時期に「淪陥区」で発行され、かつて「大漢奸雑誌」と断罪された『雑誌』を、その編纂の経緯と発表された作品の両面から考察した。
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