研究課題
基盤研究(B)
中国の通俗文学が本格的な発展を見せ始めるのは宋(960-1279)以後である。しかし、それはひじょうに長い準備期間を経て開花したものであり、先行する各時代における様々な政治的、社会的、文化的要素を融合させている。それゆえ、今日伝えられている作品のみならず、そうした作品が生み出されるに至った社会状況に注目することが重要である。とりわけ、通俗文学の濫觴期に当たる唐代(618-907)の都市空間は大きな意義を持つので、その実情を考察した。また、通俗文学の版本校訂が決して十分ではない現状に鑑み、戯曲の代表的撰集である『元曲選』に収められた二つの作品につき、新たに発見されたテキストとの校合をおこなった。さらに、「俗曲」と総称される、従来顧みられることの少なかった零細な作品についても文献学的整理をおこなった。19世紀以降の近現代文学は、西洋文明の受け止め方との関連で語られることが多く、通俗文学が与えた影響については必ずしも明らかにされていない。そこで20世紀前半の『紅楼夢』批評を取り上げて、『紅楼夢』の持つ現代的意義を再確認するとともに、近現代の作家が文芸雑誌を発行する際の目的やスタイルについても考察した。また包括的な視点から、中国歴代の通俗文学作家が中国文学史の中でどのような位置を占めるかについても検討を加えた。そのほか、近隣諸国に与えた影響を考えるという観点から、近世朝鮮における中国語学習の実態について、文献資料を精査した。幸田露伴と中国文学の関係についても検討を試みた。
すべて その他
すべて 文献書誌 (16件)