研究課題/領域番号 |
10410104
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井上 修一 筑波大学, 文芸・言語学系, 教授 (10017634)
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研究分担者 |
武井 隆道 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助教授 (10197254)
相沢 啓一 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (80175710)
上田 浩二 筑波大学, 文芸・言語学系, 教授 (30063796)
濱田 真 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助教授 (50250999)
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キーワード | ナショナル・アイデンティティ / ナショナリズム / 国民文学 / ゲーテ時代 / ナショナリズム意識の広がりと変質 / ナチズム / ヴィーン |
研究概要 |
3年目を迎えた本科研プロジェクトでは、過去2年間に収集し得たさまざまな認識と基礎的文献に基づいて、各メンバーが各自の個別関心領域で研究を深めることができた。ここ数年、ナショナル・アイデンティティに関しては日本国内でも極めて多くの文献が出つつあり、このテーマに対する広い関心が示されているが、本年度の研究を通して、ドイツ語圏における歴史的経緯を検討することで日本国内の議論に貢献できる部分が極めて多いことがますます明らかになってきた。というのも、国家的統一が遅れ文化的帰属意識が先行せざるを得なかったドイツ語圏におけるナショナル・アイデンティティ形成経緯が「ドイツ文化」といかなる関連にあるかは、ドイツ文学を考えていく上で中心的なテーマであるにとどまらず、ナショナル・アイデンティティ形成にとって文化(とりわけ文学)が果たす役割を考える上で、日本にとっても極めて興味深い対象となるからである。 そうした観点から日独の対比を視野に入れてゆく中で、本科研にとって特に重要だったのは、日本におけるナショナル・アイデンティティ形成を対象として研究を続けているドルトムント大学のトーマス・ペーカー氏を迎えての、「武士道」についての研究会(6月1日)であった。ペーカー氏は、既に相澤が2000年3月にバイロイト大学におけるシンポジウムで講演とディスカッションを通して議論を深めていた経緯から、その来日を期に筑波での討論会出席を依頼したものであったが、そうした日独のナショナリズム比較方法に関する原理的な問題は、相澤が提出した論文「美的なナショナリズムの『魅力』-ドイツと日本の類似性と文化受容」においても扱われることとなった。 こうした日独比較の視点の他にも、各メンバーは、社会的アイデンティティ形成を大枠とした個別研究を行なってきた。濱田はヘルダーに代表される18世紀におけるドイツ・ナショナリズムの萌芽期を対象とし、武井はいわゆる「ゲーテ時代」における政治意識と文学の相互関連を、相澤は上に触れた日独比較に加えて近年のさまざまなナショナリズム論の理論的検討を、上田は19世紀後半から20世紀前半におけるドイツおよび日本におけるパラレルなナショナリスティックな現象を考察し、また井上はドイツ語圏のなかで周辺へと追いやられていったオーストリアにおける文化的アイデンティティの問題を扱ってきた。 以上の研究による成果は、来年度における論文集出版によって公表することとなる。これをよりよい質のものとすべく、4月以降も各草稿を持ち寄って相互に批判・検討を加える会合を行ない、すみやかに公刊に至ることを目指している。
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