研究概要 |
平成10年度においては,これまでの予備調査で得られたいくつかの論点を既存の調査・研究に照らして検討し,その意義を確認することに第1の力点が置かれた。そしてこの検討は次の2つの方向で進められた。1つは,産業集積に関する近年の研究動向をサーベイし,それらの既存研究が産業集積の特徴と問題点の把握に成功しているか否かを批判的に検討する方向で進められた。具体的には関満博『フルセット型産業構造を超えて』,長尾克子『日本機械工業史』,渡辺幸男『日本機械工業の社会的分業構造』,清成・橋本編著『日本型産業集積の未来像』,伊丹・松島・橘川編『産業集積の本質』などを中心に検討した。検討の結果,それらの先行研究においては,それぞれに有意義な理論的あるいは実証的な貢献が見られるものの,我々が予備調査で把握したような中部地区の工業集積の特徴づけや問題点は必ずしも明らかになっていないこと,またその分析視角にも不足する点のあることが確認された。つまり中部地区の産業集積の実態を踏まえた理論分析とそれにもとづく政策立案の必要性を再認識した。 もう1つの検討方向は,中部地区の産業集積の歴史的動向に関する過去の研究をサーベイし,中部地区の産業集積の歴史的特徴がどこまで明らかにされているかを確認する方向で進められた。これまでに収集できた文献からは,時代的にも地域的にも欠落部分の多い歴史像しか得られなかった。政策課題を明らかにするためにも歴史的アプローチの強化が必要であることが確認された。 なお中部地区と他地域との正確な比較認識を得るために必要な他地域視察については,今年度は東京大田区についておこなった。具体的には中小企業金融公庫調査部と大田区産業振興協会を訪問し,大田区産業集積の全体的動向について話しを聞き,意見交換した。また今日の大田区を代表する企業4社(大田区産業振興協会の紹介による)を訪問し,個別企業次元での動向も確認した。中部地区の状況との著しい相違を実感した。
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