アレイ型APDを作る前に、受光面が1個しかない単眼のAPD素子を用いてシンチレーティングファイバー(SCIFI)を読み出す実験を行い、APD素子の性能評価を行った。APDは、-50℃付近まで冷却することによって受光素子としての特性が飛躍的に向上する。この効果によって、本研究のために開発されたAPD素子S5343MOD1は、荷電粒子通過時のSCIFIの光信号を100%近い高い検出効率で捕らえることができた。しかも、検出効率のバイアス電圧曲線上で、100%近い検出効率が続く、いわゆるプラトー領域も幅数ボルトに渡って観測された。このときのSCIFIは、長さ3m、コア径0.66mmで、その平均光量は、光電子数換算で約20個であった。 次に、アレイ型APDでSCIFI飛跡検出器を読み出す実験を行った。アレイ形APDは、本研究のために特別に試作されたもので、アレイの中には上述のS5343MOD1と同じ特性を持つAPD素子が16個並んでいる。このアレイ型APDの試作品を2個、-50℃に冷却した状態でSCIFI飛跡検出器に取り付け、荷電粒子を検出する実験を行った結果、アレイ中の全てのAPD素子を共通のバイアス電圧で動作させた状態で、全APD素子に渡って一様に100%近い高い検出効率が得られた。 次世代高エネルギー素粒子実験においてSCIFIを用いた飛跡検出を行うためには、数十万本にもおよぶSCIFIをコンパクトに読み出さなければならない。もちろん100%近い検出効率も要求される。本研究によって、アレイ型APDがこのようなSCIFI飛跡検出器の受光素子として有望であることがわかり、その実用化に向けて道が開けた。
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