コヒーレントフォノンとは、超短光パルスによって固体中に衝撃的に生成された周期的な格子振動のことである。コヒーレントフォノンの生成により、格子振動を時間軸上での変位として測定することが可能となるばかりでなく、プログラマブルなフェムト秒光パルス列を用いることにより、特定の振動モードを選択的かつ高い振幅で励起でき、精密フォノン分光や構造相転移などの実現が期待される。 本年度は、まず、コヒーレントフォノンに関する基礎研究として、グラファイトおけるコヒーレントフォノンの詳細な研究を行った。グラファイトは炭素六員環の平面構造がπ電子による弱い結合により0.335ナノメートルの面間隔で積層された構造であるが、この層間のずれ変位に対応した1.3テラヘルツの振動モードが存在する。この振動モードに対するコヒーレントフォノン信号の偏光依存性を詳細に調べた結果、コヒーレントフォノン信号がサンプルからのレイリー成分とラマン成分との干渉により検出されること、ならびにラマン光が誘電関数の実部から生じていることが明らかとなった。また、ポンプ・プローブ信号の励起強度依存性を調べたところ、電子系応答に伴う吸収変化とコヒーレントフォノン信号が同じ飽和特性を示しており、層間のずれ変位が主にπ電子系の実励起によって引き起こされていることも明らかとなった。 さらに、本年度は本研究費により購入した小型の全固体高出力CWグリーンレーザを励起光源として用いた10フェムト秒時間幅モード同期レーザの開発を行った。モード同期レーザと小型励起光源を一体化させることにより、機械的振動と粉塵による悪影響を軽減し安定性を向上させた。平成11年度は、このモード同期レーザーと現在開発中のコヒーレントフォノン測定光学系を利用して、様々なサンプルに対する研究を進めていく予定である。
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