コヒーレントフォノンとは、超短光パルスによって固体中に衝撃的に生成された周期的な格子振動のことである。コヒーレントフォノンの生成により、格子振動を時間軸上での変位として測定することが可能となるばかりでなく、プログラマブルなフェムト秒光パルス列を用いることにより、特定の振動モードを選択的かつ高い振幅で励起でき、精密フォノン分光や構造相転移などの実現が期待される。 本年度は、まず、私が独白に工夫したマイケルソン干渉計の多段接続による光パルス列発生装置を用いて、グラファイトにおける層間のずれ変位に対応した1.3テラヘルツの格子振動に対してコヒーレント制御の実験を行った。この結果、光パルス列のパルス間隔および偏光特性による緻密なコヒーレント制御が可能であることが示された。 次に、電子励起による格子ポテンシャルの変化を調べる目的で、Te結晶においてコヒーレントフォノン分光を行った。偏光特性によりAモードとEモードの格子振動を選択的に検出する実験を行った結果、強励起状態で生じるソフトニングの効果が、それぞれの格子振動に対して異なることが分かった。 また、コヒーレントフォノン分光システムにおいてサンプルの温度制御を行うために温度可変クライオスタットシステムを構成するとともに、データ収集系のエレクトロニクスを改良して信号のS/Nと時間掃引特性の向上を図った。
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