研究概要 |
水素分子は回転とスピンという内部自由度を持っており、固体表面との相互作用においてこれらの自由度が大きな役割を担う.本研究課題ではオルソ水素とパラ水素の表面との相互作用の違いを実験的に調べ,オルソーパラ転換の微視的な機構解明を目的として研究を行った. まず実験技術として,水素分子の共鳴イオン化法と6Kまで冷却可能な試料ホルダーの開発を行い,これらを組み合わせて新たにスピン/回転状態弁別昇温脱離法を完成させた.本手法を用いて,メソポーラスアルミナ表面,銅表面,単結晶Cr_2O_3表面,NiAl(110)上の単結晶アルミナ表面への水素吸着とオルソーパラ転換に関する研究を行った.その結果,メソポーラスアルミナ表面では,1.細孔内部と粒子表面とで吸着エネルギーが異なること,2.細孔内部のオルソーパラ転換時間が32分であること,3.粒子表面のオルソーパラ転換時間が7分以下であること,4.細孔内部ではオルソ水素のほうがパラ水素より吸着エネルギーが約6meV大きいこと,を新たに発見した.一方多結晶銅表面では,1.オルソーパラ転換時間が約30分以下であること,2.オルソ水素のほうがパラ水素より吸着エネルギーが約5meV大きいことを新たに見出した.オルソーパラ転換機構としては,不純物局在スピンによる磁気双極子相互作用によるものと推論し,またオルソ水素とパラ水素の吸着エネルギーの違いは,吸着ポテンシャルの異方性に起因すると結論した.
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