2つのフェムト秒光パルスの相対位相を調整することにより、半導体中の光学遷移を自由に制御する方法であるコヒーレント制御法を1光子禁制状態の研究に適用するために2光子共鳴分光法である共鳴ハイパーレイリー散乱法と組み合わせた新しい分光法を開発した。この方法は2光子過程を用いているにもかかわらず、共鳴効果を利用しているために通常の方法では微弱すぎて検出不可能な信号でも検出できる方法である。したがって、時間分解測定を行うと信号強度が極度に弱くなることが予想される1光子禁制状態の研究を行う際の最適な方法となる。この方法をGaAs基板上のZnSe薄膜中の1光子禁制状態である2p励起子状態のコヒーレント制御に適用した。その結果、この方法により2p励起子分極は入射パルス間の相対位相を制御することにより自由に制御できることが分かった。また、2p励起子状態の位相緩和時間も〜2psであることが判明した。さらに、得られる信号に量子ビート信号が重畳していることにより、この系の励起子状態はZnSeとGaAsと格子定数の違いによる歪のために、価電子帯はヘビーホール、ライトホールバンドの2つに分離していることも判明した。その分離量は量子ビートの周期より約2meVであることも分かった。次に、2つのパルスの偏光状態を変えることにより、ZnSe中の分離した2p励起子状態の対称性を調べた。その結果ヘビーホール、ライトホール2p励起子状態は異なった対称性に属していることが判明した。スペクトル変化の情報を加味することにより、ヘビーホール2p励起子はs関数的、ライトホール2p励起子はd関数的であることが分かった。また、2p励起子状態を中間状態とする共鳴ハイパーレイリー散乱過程の選択則はSHG過程のそれとは異なることも判明した。
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