物質中で3THzより低い振動数領域は低振動数領域と呼ばれ、物性に直接結びついた情報を与えることが知られている。液体ではこの領域は低振動数フォノンと緩和モードが存在している。特に後者は液体に特有で、フォノンなど量子力学的に取り扱えるミクロな自由度と同程度の時間スケールの揺らぎにも拘わらず古典的な振る舞いを示している。 我々はTi:サファイアレーザーの共振器内でのパルス列発生と再生増幅部分のパルスコンプレッサーやストレッチャーなどの波長分散素子や共振器外の回折格子対でフーリエ変換波形整形法を行い、種々のパルス列を作り出す方法について研究した。また、共振器外の回折格子対で2つの波長を選択することにより、同期した2色パルス作ることができ、これを用いた4光波混合の実験も行った。波長の異なる2つの光パルスにより、物質中に動く回折格子が形成されるため、励起するモードの選択性があがることも分かった。 さらに、4光波混合の手法を用いて物質を励起し、物質中に生成したコヒーレントフォノンや揺らぎをスペクトル幅の狭いパルス光でプローブし、スペクトル領域で測定する方法(FD4WM)の開発を行った。この方法では、物質中の低振動数領域でのフォノンや揺らぎを周波数領域で精度良く測定できるばかりでなく、光パルス列や2色の励起光を用いて物質中に波数と振動数の決まったフォノンをつくりだし、それをリアルタイムに見ることができることが分かった。励起光の強度を強くしていくと、反ストークス領域のスペクトル構造が強くなることが観察され、誘導ラマン散乱過程において振動が選択励起されている過程であることが考えられる。スペクトル構造の解析からは低振動数領域でのフォノンのダイナミクスについての情報を得ることができ、さらにそのフォノンが非調和な結合を経て、やがてマクロな物性の発現に至る過程を直接見ることができることが期待される。
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