2原子分子O_2からなる固体酸素の金属化や分子解離といった高圧現象の研究は物性物理学や化学結合論の見地から重要なテーマである。O_2分子はその基底状態がスピン三重項で特徴づけられるの常磁性であり、高圧相の磁性の解明は量子論の基本的課題である。われわれは固体酸素が金属化に対応する95GPaの高圧化で構造相転移を起こすことを突き止めた。最近、この高圧相で超伝導が発見されている。 本研究では、固体酸素の磁性、金属化そして分子解離の解明をテーマに、光輝度放射光を使ったX線回折実験による構造相転移の研究、そしてラマン散乱と赤外吸収実験による振動分光の研究、さらに光学反射実験を行い、以下のことを明らかにし、その成果を発表した。 1.金属化が起こる96GPa近傍で詳細なX線回折、ラマンと赤外分光及び光学反射実験により、金属化がε-ζ構造相転移(一次転移)に原因すること、反射スペクトルの異方性から高圧金属相は低次元伝導性をもつことが解った。この結果は、最近発見された超伝導の機構解明の上で貴重なデータといえる。 2.固体酸素ε相の単結晶育成に成功し、この結晶を使った赤外分光測定により、酸素分子の配向と分子間の相互作用を反映した光学異方性(二色性と偏光特性)が初めて明かになった。 3.固体酸素の低温(19K)X線実験により、低温での温度-圧力相図が12GPaまで確立された。αとσ高圧相において構造パラメータの圧縮異方性が明らかにされ、磁気モーメントの反強磁性秩序が示唆された。 4.β相の単結晶育成に成功し、X線精密構造解析の結果、酸素分子の分子軸がc軸に対してdis-orderしていることが明らかになった。この不規則性は分子磁性体の磁気構造に起因すると説明された。 5.固体酸素の関連物質である水素、メタン、リン等の構造相転移や金属化が対照実験として行われた。
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