ここ2〜3年、La214やBi2212等の銅酸化物高温超伝導体の常伝導相(T>Tc)では、異なる2つの温度T_m、T_*でクロスオーバーが存在し、これらが超伝導と深く関わっていることが明らかとなってきた。我々は、La214系のキャリアー(ホール)濃度が最適値付近からオーバードープ領域に入ると、Cuのdホールが徐々に遍歴性を強めることを明らかにした。そして、これに連動するようにクロスオーバー温度T_m、T^*が共に低下し、超伝導ギャップ2Δ_0も減少することがら、Cuのdホールの局在性が超伝導を支配する重要因子であることを指摘してきた。 (1) そこで、本研究の目的の1つとして、走査トンネル顕微鏡(STM)によるCuO_2面のSTM像から、dホールの局在性(d_<x2-y2>とp_0との混成度)のホール濃度依存性を調べることとした。この研究では何処にクリーンな僻開面の試料を用意するかがその成否を決めるため、本年度は超高真空中における試料僻開が可能な極低温STM装置の組み上げを行い、現在、その極低温領域での調整を行っている。 (2) また、Cuの局在dスピンが作る磁気的ネットワークに着目し、(dスピンを持たない)Zn添加によってこのネットワークを乱した場合に生じる超伝導への影響も調べている。現在までに、Zn添加によってこのネットワークを乱した場合、その領域で超伝導が完全に抑制されることが明らがとなった。そして、この超伝導の抑制は単なる超伝導電子対の対破壊によるものでなく、局在dスピンの磁気的ネットワークに少しでも乱れが生じるとそこでは本質的に超伝導が起きなくなるためであることが結論できた。この結論は「超伝導の発現に局在dスピンが作る磁気的ネットワークが重要な役割を担っている」ことを示す大変興味深いものであり、結果の公表も行った。
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