我々は銅酸化物高温超伝導体における不純物の対破壊効果を、Cuの3dスピンが作る磁気的ネットワークに着目して調べてきた。具体的には、不純物として3dスピンをもつNiともたないZnを選び、それらが磁気的ネットワークと超伝導に与える影響との比較を行った。その結果、3dスピンを持たないZnは磁気的ネットワークを大きく乱し、その乱れた領域では本質的に超伝導が起きなくなることを結論してきた。この結論は、植村によるミューオンを用いた不純物効果の研究や最近行われたカリフォルニア大学のSTMによる研究結果とも一致する。ところで、銅酸化物超伝導体の多くでは、常伝導相の2つの温度T_<max>、T^*付近から成長する擬ギャップが高温超伝導の発現と深く関わっていると指摘されているが、本研究ではこれらの擬ギャップに対する不純物効果の研究も進めてきた。これまでに、低温側(T<T^*)の擬ギャップに対する不純物の影響は超伝導の抑制と密接に関連しており、この擬ギャップが超伝導発現の前駆的現象という考え方を支持する結果が得られた。一方、高温側の擬ギャップに関する不純物効果からは高温側の擬ギャップの起源に関係すると思われる特徴的な結果が得られつつある。また、本研究では不純物による対破壊効果を調べるために超高真空タイプの極低温STM装置の立ち上げを行っているが、現在、ヘリウム温度で試料表面が観察できるまでに装置の調整が進んでいる。今後、微視的観点からNiとZnによる超伝導の対破壊効果や擬ギャップに対する不純物効果を調べていく予定である。
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