研究概要 |
本研究課題の目的は、キャリアをドープされた強相関一次元鎖に期待されるエキゾチックな金属状態とそれに付随する新奇な物性を開拓することにある。研究の準備段階において、高温超伝導体YBa_2Cu_4O_8の二重一次元鎖部分が、非常に高い伝導性を示し、我々が目的とする舞台設定を有する理想に近い系であることを見いだした。YBa_2Cu_4O_8の金属的な一次元鎖は互いに弱く結合しており、金属間の伝導は金属的である。したがって、電子系は強く一次元的ではあるが、厳密に言えば二次元ないしは三次元である。ところが、鎖に垂直な方向に磁場を印加することによって、ある臨界磁場以上では鎖間の結合が実効的に断たれ、鎖間の伝導の温度依存性は絶縁体的なものへと劇的に変化してしまうことを発見した。磁場によって電子が鎖内に閉じ込められ、電子系の次元性が下がることから、我々はこれを「磁場誘起次元交差」と名付けた。 新しい現象の発見の後の短期的目標は、この現象の物理的機構を明らかにすることであった。この現象が、LebedとGorkovによって提唱された電子の実空間閉じ込めモデルによって理解できると考え、その妥当性を調べるために、結晶中にZn不純物を導入し、磁場誘起次元交差現象がどのような影響を受けるのかを調べた。その結果、不純物散乱を導入しても臨界磁場はほとんど変化せず、臨界磁場以上の磁場中での絶縁体的な振る舞いが弱められることが判明した。この結果は実空間閉じ込めモデルから予想される振る舞いと一致しており、Lebed、Gorkovモデルの妥当任が実験的に確立された。 次の短期的的目標は、キャリアが鎖内に閉じ込められた状態における、朝永ラッティンジャー液体の可能性の探索であり、それに向けてCuO_2,二次元面の超伝導を抑制し、低温での物性を測定する準備を進めている。具体的戦略として、CuO_2面に垂直方向の磁場を用いる方法と、YをPrに置き換える方法の二つのアプローチを予定している。前者については50Tのパルス強磁場下で30K程度に転移温度を下げることができることが判明した。また後者については、現在試料作成が進行中である。
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