本研究では、希土類やアクチノイド化合物における磁性元素特にウランのNMR信号観測を行い、重い電子系におけるf電子の微視的な電子状態の解明を目的とした。結果、濃縮ウラン(^<235>U:93%)で作製した反強磁性体UO_2においてウランNMR信号をはじめて観測することに成功した。反強磁性状態における内部磁場は252.3T、電気的核四重極相互作用は392MH_Zである。観測された内部磁場の9割近くは5f電子系電子の軌道運動による磁場であることがわかった。さらに、電気的核四重極相互作用の存在は、常磁性状態では立方対称的であるはずの5f波動関数が、反強磁性状態では一軸対称性に変化していることを意味している。このことは、強いスピン-軌道相互作用の系において、磁気モーメントの出現は5f電荷分布の変形(すなわち軌道あるいは四極子の変化)を伴っていることを顕著に示している。ウランニ酸化物(UO_2)は、反強磁性秩序と反強四極子秩序の共存として古くから研究されてきた物質であるが、その磁気構造とJahn-Teller歪みの詳細は明らかにされていなかったが、本研究で酸素^<17>Oを濃縮した試料を用いて^<17>ONMRを行った結果、可能な磁気構造とJahn-Teller歪みについて新たな知見も得られた。 その他、近藤半導体YbB_<12>において^<171>YbNMRの信号観測にも成功した。結果、低温の核スピン-格子緩和率の温度依存性が^<171>YbNMRと^<11>BNMRで、全く異なるということが判明した。これまで、NMRに関しては、^<11>BNMRの結果でこの系の異常な低エネルギー磁気励起が議論されてきたが、4f電子の情報を直接反映している^<171>YbNMRの結果から、近藤半導体の磁気励起の解釈に新たな発展が期待される。
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